熊本県の象徴である阿蘇山は、直径約20kmの世界最大級のカルデラを持つ火山で、外輪山に囲まれた広大な盆地の中央には、今も噴煙を上げる中岳をはじめとする阿蘇五岳がそびえている。その五岳の北側は熊本駅と大分駅を繋ぐ豊肥本線が走り、南側を南阿蘇鉄道が走る。
南阿蘇鉄道は全長17.7kmで、地元自治体が運営する第三セクターで国鉄の高森線を引き継いだが、2016年の熊本地震で運休し、全線運転が再開されたのは2023年というローカル線である。JR豊肥線の立野駅から西に向かい、高森駅が終点となる盲腸線である。

この鉄道に乗るために、羽田から熊本へ飛行機を使った。飛行機はまさしく南阿蘇鉄道の上をなぞるように飛び、地図には載らなかったが、赤線の鉄道を2倍に延長したくらいの西側にあるのが熊本空港に降り立ったのである。
そこから延岡駅行きのバスに乗ると途中に高森町交流センター停留所があり下車する。このセンターの隣が高森駅である。このセンターはテラス席もあるカフェも備え立派な建物で、地方創生予算で作られたようである。土日は観光客で賑わうが、平日は小学生の溜まり場になっているとのこと。 小学生にとっては、雨風が凌げる大空間を占有できるので楽しかろうと思うのである。

さて、高森駅に入線してきた車両は気動車の単行運転である。(ディーゼルエンジン車の1台のみの運転)但し、新型車両なので前照灯はLEDを採用しており、ディーゼルの振動や騒音も少ない。ローカル線特有の後乗り、前降りで、運転手のいる前側のドアの前に料金箱がある仕様となっている。
走り出すと右側に聳え立つ阿蘇五岳を見上げ、左は山裾の広がりを見下ろす事になる。途中に「南阿蘇白川水源」という駅があり、阿蘇山に降り注いだ雨水が伏流水となって毎分60トンも湧き出る名所がある。富士山で言えば忍野八海や三島の湧水群である。

定規で引いたような直線の線路が終点の立野駅に差し掛かると、大きな谷を渡る鉄橋に差し掛かる。それまで途中の駅は熊本地震の影響を全く受けていないように見えたが、実はこの谷に掛かる鉄橋が崩落してしまい、その復旧に時間がかかったのである。また、車窓から望む谷に掛かる道路橋も新しく見え、さらに斜面の山肌に草が生えていないのは地震による土砂崩れの甚大さを想像できるのである。



さて、乗り鉄とは1960年代まで続いた鉄道黄金時代の遺跡を巡る旅でもある。無駄に長いプラットホームや、鉄筋コンクリートの駅舎がある無人駅、蒸気機関車の名残りである転車台や給水塔などはまだあちこちで確認でき、旅情と万物流転を感じさせるのである。
そして、大災害から復旧された真新しい線路や鉄橋を走ることで、大自然の大きさ、それに対する人間の復旧への思い、技術力に触れることも乗り鉄の醍醐味であると思ったのである
以下、思いだすまま最近の災害と復旧の路線。
JR常磐線;東北大震災と津波、原発の放射線被曝を経て富岡・浪江間が9年ぶり復旧
箱根登山鉄道:2019年の台風による土砂崩れで全線が被災、9ヶ月で全線開通